This text scanned and OCRed by Chris Covell. Enjoy!

『ソルスティス2』のできるまで

ななめ3D、立体的なトラップとアクション。斬新なシステムを持った『ソルスティス2』は、どんな行程を経て完成に至ったのだろうか? 開発陣&ディレクターから聞いた、秘メイキング・オブ・『ソル2』!

 まず『ソルスティス』というファミコンゲームがあった。ななめ3Dの画面構成は、このときすでに完成していた。内容は、『ソルスティス2』よりもパズル色が強く、次回作を作るときは、もっとアクション性のあるゲームを、というのが開発陣にはあった。『ソル2』制作がスタートしたのは、'90年春のことだった。

1 システム開発
 このゲームの開発陣は、イギリスのソフトハウス。スーパーファミコンのハードの解析が始まったのが、制作スタート時期というから、ハード自体はまだ発売されていない。 IBMを使って、オリジナル・ツール(スーパーファミコンの機能を持たせたソフト)を作り、ここからシステムを作っていった。このとき、すでに'91年になっていた……。

2 プログラミング・システム
 基本システムが完成して、いよいよプログラミング。同時にダンジョン・マップもデザインされていった。しかし最初のダンジョンが画面で見られるようになったのが、すでに'91年末。システムのプログラミングには、当然時間がかかる。これが完ぺきでないと、ゲームが立ち上がらないからだ。

3 キャラクター・デザイン
 メインのキャラクター(グレンダール)のアニメーション。これが非常に難航した。アクション・ゲームであるかぎり、コントローラーの反応、動きが重視される。しかもタテヨコ以外に、上下にも動かさなくはならないのだから。それに比べると敵のデザインは非常に簡単だったそうだ。ボスも1週間くらいでデザインされた。

4 グラフィック
 じつはこの作業に一番時間がかかっている。つまり設計(システム)上ではできるのだが、実際に画面に表現され、しかもきちんと動かすとなると、簡単にはいかなかったのである。 とくにブロックをすべてスプライトで表現しているために生じる画面バグを解消するのに、1年以上かかってしまった。そしてゲームバランスをとり、'93年夏、ようやく完成した…。

『ソルスティス』ファミコン用ゲーム。'90年7月発売。

※システム……このゲームの最大の特徴である3D画面を作るための大もとの設計図。ゲームを普通に遊べるようにするための環境。

各種ブロックのデザインとその仕様。どのブロックがどのステージに登場していたかわかるだろうか。

アトレーナのガーディアン、ピンチャのデザインと仕様。このモンスターにはヨコやななめのグラフィックはないが、ハサミの動きを考えなくてはならなかった。

Interview インタビュー

『ソルスティス2』を実際に開発したのは、イギリスにあるソフトハウスだ。3D=立休というゲーム世界を構築し、それをパズル、アクションゲームとして完成させるまでの秘話か、今ここに、赤裸々に明かされる。(取材:筆者)

ファミコン版の前作をどうパワーアップするか
『ソルスティス」の続編がスーパーファミコンで発売されるって、かなり前からあった話ですよね。僕がまだ某ゲーム雑誌にいた頃からだから。
赤川氏談  「それをいわないでよ。たしかに企画がスタートしたのは'90年の3月だから、もう3年半前になるね。ここにたどり着くまでにいろいろあったのよ。』
じゃあ、その話はあとにして。『ソルスティス』から、今回の『ソル2』に至るにあたっての一番の変更点は何でしょう。
ジョン・ピックスフオード
(以下ジョン)

まず、スーパーファミコンは、少なくともファミコンの2倍は優れたマシンだ。だから僕らも、2倍はいいものにしようって話をしたんだ。ゲーム性、グラフィック、操作性、どれをとってもね。その中でも大きな決断は、
@.多数の武器と魔法、それに巨大なボスキャラクターを入れこんだ、アクションタイプのゲームプレイの導入。
A.すべてのグラフィックの大きさを2倍にし、スクロールを必要とする部屋を作った。Aの部分のために、このゲームはかなり長期間に渡る開発時間を費やしてしまったけどね。

スティー・ピックスフオード
(以下スティー) 
主な違いは、明らかにマップセレクションだ。これはスーパーファミコンの機能を最大限に利用するために考え出されたんだ。プレイヤーに、大陸や海洋を旅してもらい、いままでにない発見や探検をしてもらえたと思う。
赤川氏談   「『ソル2』の開発にあたって、こちらから指示したのは2点です。
@.バックアップをつけてほしい。
A.武器を持たせてほしい。
 前作は魔法だけだったんですよ。だからすごくパズル的な要素が強かったんです。それにマップセレクション(複数のマップがあること)ですが、やはり前作はひとつのマップをひたすら突き進むといったゲームだったので、RPG的要素を入れたいというリクエストをしたんですよ。」
スティー  僕らは『ソルスティス2』にもっと多くのアクションを取り入れようとした。プレイヤーに、パズルを解くと同様にアクションもたくさん楽しんでもらいたかったんだ。
大きなスプライトがひとつの画面に入っているということに、僕はとっても興味を覚えたんですが。
ジョン  『ソルスティス』とは異なる形で、オブジェクト(スプライト=ブロックやモンスター等、ここでは背景以外をさす)がゲーム中で動くようにプログラムする。これは、前作のパズルが、スーパーファミコンと僕らの新しいシステムでは実行することができないことを意味していた。このために、多くの新しいアイディアを考え出さなきゃいけなくなったんだけどね。それに、各マップのデザインを4人で分担したことも、常に新しいアイディアが生まれるためにはよかったことだろう。
赤川氏談  「システムに関しては、ほとんどお任せでした。彼らは『ソルスティス1』での実績がありましたからね。」
スプライトに関する多くの苦労話
スプライトの話が出ましたが、完成するまでには、スプライトが面面にバグらずに出る出ないっていう部分で、かなりの時間を費やしたそうですが。
ジョン  ちょっと専門的になるけど、がまんして聞いてくれ。その通り、スプライト処理には、かなりの問題点を含んでいた。僕らは、ゲームを早く動かすために、スプライトをかぶせる技術を使って、キャラクターを物体の後ろや間に登場させられるようにしたんだ。このことによって、多くの状況において、同じ水平線上に、スーパーファミコンのPPU*が処理できないほど多くのスプライトが存在することになってしまった。また、一番プライオリティの高い(最も前面に近い)スプライトをまず消してしまうPPUロジックの中にバグがあったことで、さらに悪い結果を招いてしまった。
赤川氏談  「一番最初の質問に答えると、こういう事件があったからなんですよ。でもね、日本のプログラマーだったら、徹夜してでも短期間で解決策を考え出すんだけど、彼らときたら夕方の5時には帰っちゃうんだ。彼らのボスであるイアン・スチュワートが、いつもニラミを効かせててもね。そのうえ僕が毎月イギリス詣でをしてもおかまいなし。日英の文化の違いをこんな形で理解できちゃって、泣けてきましたよ。」
で、最終的に見つかった解決法は?
ジョン  まず僕らが作ったシステムを、本質的なスプライト(決して取ることができない、例えばその上にトークンが乗っている等)だけが描かれることを確実にするために、最大限に利用した。次に、スプライトの崩れを起こす状況を最小限にするために、部屋の多くをデザインし直す。この解決法の悪いところは、多くの素晴らしい部屋を諦めなくてはならなかったことだ。でもね、このプログラム・システムを作れたのは、本当に運がよかっただけだって思っているよ。
赤川氏談  「最後は謙遜してるけど、そんなことはないですよ。基本システムの構築がしっかりしていたからこそこのゲームが作れたんですね。」
『ソルスティス2』に影響を与えたゲームとは?
『ソルスティス2』を作る際に、影響を受けたゲームってあります?
ジョン  僕が一番好きなゲームは、いつでもスーパーファミコンの『ゼルダの伝説』さ。このゲームが好きなのは、完全なゲームシステムが構成されている点と、そこに完全なる努力があるからだ。ほとんどがパーフェクトで、細部に渡る心配りは素晴らしいものだ。もちろん、『ソルスティス2』制作時にも影響を受けたよ。でもどちらかといえば、ファミコン版『ゼルダの伝説』のほうが強いけどね。あとは、マリオシリーズ、とくに『マリオ3』だね。任天堂は、恐らく世界で一番いいデザイナーを抱えているんじゃないのかい?
スティー  僕も『マリオ3』がサイコーだね。影響といえば、スペクトラム・コンピュータ用の、いくつかの古いイギリスのゲームにも影響されているんだよ。
赤川氏談  「私も『ゼルダの伝説』は大好きなんですよ。え、聞いていない? それは失礼しました(笑)。」
そして完成、出来ばえは?心残りはある?
いろいろな紆余曲折を経て、ついに完成したわけですが、出来ばえはどうでしょう。
ジョン  グラフィックについては、スティーはひとりで本当に素晴らしい仕事をしたよ。
スティー  ゲームの出来ばえには喜んでいるよ。だけど、敵キャラクターの種類はあまり充分とはいえないね。あと、アトレーナの音楽は、これまでのコンピュータゲーム音楽の中で、僕が一番気に入っているものだ。
ゲームバランスについては、どうですか。
スティー  カグミールのダンジョンは、ちょっと難しいと思う。総括すると、このゲームには、話をする別のキャラクターが必要だと思うし、それを僕らもデザインしたんだけど入れ込む時間がなくて残念だった。
赤川氏談  「実際、発売予定日よりもずいぶん日数がオーバーしてしまったんですが、それでもがまんした部分もかなりあるんです。」
やっぱり画面中でヒントジジイが必要だった、と。では、最後にこのゲームのプレイヤーたちにひとことお願いします。
ジョン  『ソルスティス2』制作に関して。時間の大半は新しい3Dシステムを開発することに費やされたとはいえ、僕たちは、ゲームとはエキサイティングなものでなくてはならないし、プレイヤーに挑戦するものなのだ、ということは決して忘れはしませんでした。僕たちがそれに成功したかどうかは、プレイヤーであるあなただけが判断できるものです。
 あなたの冒険の旅は容易なものではありません。でも、諦めないでください。忍耐と注意深い思考は、いつでも報われるものです。注意深くプレイしていけば、ヒントやパターンを必ず発見できるでしょう。
 経験を恐れないように。どの部屋も探検してみてほしい。セーブの機能は有効に活用してください。そうすれば、間違いありません。最後に、最高のスコアは5500。これを参考に、自分の進歩をはかってみてください。
赤川氏談  「ヌルゲームの多い昨今、こんな硬派なゲームで、頭と指をエクササイズしてみるのもいいのではないでしょうか。」
どうもありがとうございました。
*今回の取材形式は、日英間での電話、並びにファックスによって行われている。ディレクターの赤川氏には、スーパーバイザーとして、このインタビューのあと、回答していた。
PROFILE
ジョン・ピックスフオード
プログラマー&デザイナー。'67年4月23日生。ゲームのプログラミングは、95パーセント彼の手による。好きなものは、映画、レーザーディスク、ビール、それに『ソル3』!
PROFILE
スティー・ピックスフオード
ア−ト・ディレクター。'69年12月25日生。ジョンの弟。アングラのクラブファンジンにコミックを書いて出版。バンドでベースも弾く。『ゼルダ』の音楽をプレイするのが好き。
PROFILE
マイク・ウェッブ
テクニカル・ディレクター。'58年9月27日生。『ソルスティス2』の開発ツールを制作した。インタビューには答えていないが、ゲームの最重要スタッフのひとりである。
PROFILE
赤川良二
ディレクター。生年月日は秘密。潟\ニー・ミュージックエンタテインメント制作課勤務。日英間を頻繁に行き来したため、運び屋に間違えられそうになったという話はない。
*PPU……ファミコン、スーパーファミコンに内蔵された、スプライトの処理速度を速めたり、スプライトを動かしたりするための装置。PPUロジックとは、コンピュータ内で、スプライトを処理(計算)するための計算式。
アイディア会議中。彼ら、ソフトウェア・クリエイションズは、小数精鋭のソフトハウスである。次回作『ソルスティス3』も、すでに構想中であるという。